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ふらっと徒然に。
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屋上でぼんやりと空を見上げた。青い、雲ひとつない快晴である。手に持ったままのカフェオレを口元に運んで吸い上げる。苦いようで甘い。いまの自分の気持ちとそっくりだ。いや、本当はもっと苦い。苦くて苦くて呆ける程度には、苦い。
 きゅっと眉を寄せて、先ほどの出来事を思い出してつぶやいた。

「なんだよファンクラブって」


***


 恒例のランチミーティングを紫原の膝の上で終え、そのままキセキの連中の雑談をぼんやり聞いていると予鈴が鳴った。
 さて教室に帰らねば、と各々が動き出したとき、屋上の出入り口からこちらを覗いている女の子を発見したのだ。ばちっと目があうとなにやら黄色い悲鳴があがり出入り口が騒がしくなる。
 まだどこぞのモデルが仲間入りを果たしてないから誰に対してだろう、なんて興味もなくただ素朴な疑問が浮かんだが、キセキの連中は驚くほどに顔がいい。性格やらなにやらはともかく、顔は、いい、のだ。
 だからファンなんてたくさんいるかー、と自己完結して立ち上がると、友達と思われる女の子に背を押されて、先ほど目があった女の子がこちらへと近づいてきた。あらあら、顔を真っ赤にしてしまって、よほどキセキの連中らに憧れていると見える。可愛いものだ。
 にやにやしつつ、高みの見物を決めようとさりげなく後ろに下がったときだ。

「たた高野空さん!もし良かったらこれ受け取ってください!クッキーです!あのファンなんです!!」

 すごい勢いで両腕を目の前に突き出され、その先の両手には可愛くラッピングされたクッキーがある。
 女の子は顔といわず耳まで真っ赤にして俯いている。自分は予想外すぎる言葉と目の前の現実に目を大きく見開いて女の子の後頭部あたりを凝視した。その視線にこもる思いは「まじか。本当にか。なぜキセキじゃない」である。
 あまりのことに呆気にとられていると、紫原の「空ちん?」といういつもの声で我に返った。面白そうにしているキセキの連中はとりあえず無視しておき、いつまでたっても受け取ってくれないことに震え始めた女の子の手を包み込むように握った。
 びくり、と反応した女の子に苦笑する。

「ありがとうございます。自分のために作ってきてくれたんですね、うれしいです。でも、怪我には気をつけてくださいね」

 そっと指の絆創膏を撫でるようにして手をさすった。鉄板などで火傷でもしたのだろう。折角きれいな指なのに、あとが残らないといいなぁ。そんなことを考えながらいくつか見える絆創膏を痛ましげに撫でていると、女の子は下を向いたままよろける様に後ずさった。気づくと全身真っ赤になっている。あれ、なんか自分やらかしたか?

「ああああああの!」
「はい?!」

 ばっと勢いよく顔をあげる女の子は涙目だ。顔も真っ赤だ。おいおい大丈夫か。

「あまり作りなれていなくて!一応一番成功したものを包んできたんですけど自信がなくて!もしかしたらお口にあわないかもしれないので捨ててくださっても大丈夫ですから!」
「そんなまさか。おいしく頂きます」

 どこで息継ぎしてんだってくらいに最後は一息で叫ばれた言葉や大きな声と勢いに目を丸くしながら、とっさにそれだけ返した。そうすると女の子は金魚のように口をぱくぱくさせてまた俯き、ずっと握ったままでいた手に気づいて勢いよく引き抜いた。両手を胸の前でぎゅっと握り、間合いをとるかのように重心を後ろへと移動させたかと思うと、

「ありがとうございましたあああーーーーー!!!!」

 そう叫んで屋上から姿を消した。
 なんだったんだ。
 呆然と手に残ったクッキーと、キセキ達の爆笑を背中に本鈴を聞く。

「赤司さん、紫原さん、君達は知っていましたね」
「うんー俺知ってたっていうか気づかない空ちんが可笑しいよー」
「そうだな、俺たちのファンクラブと並んでお前のファンクラブが密かに結成されたことはうわさになっていたからな」
「あぁ・・・そう・・・」

 非常に疲れた。ほんの3分程度だが、本当に疲れた。全身を襲う疲労感にがくっと肩を落とす。

「面白いものをみれたことだし、次の時限はサボっても特に何もいわないでやろう」
「赤司、それは」
「緑間、別にいいじゃないか。このまま授業に送り出してもためにならんだろう」
「む・・・」
「紫原はうまいこと言っておいてやってくれ」
「りょーかーい。空ちんここでのんびりしてなねー」
「あぁ・・・気遣いありがとう・・・」

 紫原の大きな手が頭を撫でる。いつもは嫌がるのだがいまはそんな気力もなく、「あ、これあげるよー間違って買っちゃったんだー」とかいって手の中に追加されたカフェオレをおとなしく受け取った。笑い死にしている青峰の首根っこをつかんで連行している赤司達を見送ってずるずると座り込む。
 そして冒頭へと戻るのである。

「・・・いやいや、なんで自分なの」

 回想して考えてみても疑問しかない。よくわからない。何でだ。何をしたっていうのだろうか。普段どおりに過ごしているのに、ファンクラブとか。長く生きているが初めてだ。そもそも同性のファンクラブって、多感な時期なだけに少し不安になる。
 いくら思い悩んでみても答えはでない。まぁ、でるはずがない。とりあえずはずっと手の中にあるクッキーを食べようと、かわいらしいラッピングを解いた。あぁ、女子力って感じだ。
 ひとつ掴んで、口へと放り込む。

「・・・おいしい」

 もそもそ食べるクッキーは少し焦げた味がした。




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ファンクラブ作ってみた。
キセキにファンクラブがないのはおかしいかなって思いまして。
あとしおの高校時代に、同じクラスメイトの女の子からいわれた「女子高にいったらモテるよ」という言葉からファンクラブ話にしてみました。
いろんな人生を経て(笑)高校生にしては変に落ち着いているし、変にフェミニストなところがあるので、こうなったって感じにしておいてください。
あー面白かった。
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