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ふらっと徒然に。
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とりあえず前後の女子に話しかけてみようと、緊張しながら声をかけたのは入学式の翌日。その子から広がってそこそこにクラスの女子と会話をするようになったのはその数日後。これで移動教室だのペアだのは安心だな、と思った矢先の出来事だった。
「遅刻しましたー」
 そういって堂々と、教室の前のドアから入ってきた男子に視線が集まる。授業を開始して十数分は立ち、しかもいまは二時限目だった。遅刻は遅刻なのだが、そんなに堂々としていていいのだろうか、と教卓の近くで叱られている男子を呆れたように見る。遅刻理由に「良い坂があったので」とか意味のわからない理由を述べているあたり、あぁこれは関わらないほうがいいな、と悟った。
 人のことは言えないが、変な人に関わるとあまり良いことはなかったから仕方ないことだろう。
「もういい、席につきなさい」
「はーい」
 叱っても無駄だと判断したらしい教師が、ため息をつく。遅刻した男子はへらへらと笑っているし特に気にした様子もないので、正しい判断だといえよう。あとで教育指導係から呼び出し食らうだろうな、なんて考えていたら、その男子はあろうことにも自分の隣の席に座ったのだった。
 軽く目を見開いて、ちらり、と隣を見る。
 爽やか系イケメンだった。
 さっきの変なところがなければ、人気がでるだろう男子だ。いや、それでも人気はでそうだ。
 イケメンは得だよなぁ、なんてぼんやり思って、意識を授業へと集中させた。頭のつくりは良くないが、この学校へと入れてくれた両親のためにそこそこの成績を叩き出さなければならないのだ。こんな、本能が訴える"関わってはいけない人間"に構っている暇などない。
 そうやって隣の存在を除外していたために気づかなかった。爽やか系イケメンがちらり、と自分を見たことに。


■■■


 生徒の半分以上が寮生活な箱根学園には、その生徒のために学食が存在している。自宅から通う生徒は弁当という暗黙のルールがあるのか、利用するのは寮生活をしている生徒が大半だ。稀に弁当を忘れてきたり家庭の事情から学食を利用している生徒がいるが、寮に所属しない生徒はほぼ弁当を持参しているというのだから、校則にでも書かれているのだろうかと生徒手帳を確認したのは記憶に新しい。特に記載はなかった。
 ぴっと券売機で目的の食券を買い、列に並ぶ。何度か学校へと通ってはいるが、学食は初めてだなぁ、と待ち時間の退屈さに欠伸をした。
 仲良くなった子たちは弁当持参組だったため、昼ごはんは一人寂しく過ごすことになった。気を使ってくれようとしたが、それは丁寧に辞退した。弁当は彼女らの母親が作っているんだろうし、自分の都合でそれを無駄にはさせたくなかったのだ。そのぐらいなら一人でご飯ぐらい食べるわ。そんな意気である。女子特有の群がり症候群のようなそれは自分にはもうない。あぁでもこれじゃあ浮くかなぁ、と本日の昼食である和食定食のおぼんを持ちつつ、席を探した。適度にあわすことも必要だな。現代社会の面倒なところだ。
 空席を一つみつけ、隣の人に声をかける。
「すみません、ここ良いですか?」
「アッ?!…あぁ、かまわねェヨ」
「ありがとうございます」
 眼光鋭く返事され、びっくりしてしまったが了承の言葉は返ってきたので、そのまま座る。そのことに隣の男子は、器用にも片眉をあげて驚いているようだった。察するに、あぁいう対応がデフォなのだろう。だから良いといって座る人はあんまり居なかったための反応のようだ。あの程度でびびるほどではないのだが、あんまり度が過ぎるとやはり浮くなぁ。…面倒だから諦めよう。
 ぱん、と手を合わせて「いただきます」と言い、昼食に手をつける。斜め前から突き刺さる痛い視線は無視だ。
「おめさん、すごいな」
 できなかった。
「おい、新開。いきなり話しかけてんじゃねェヨ」
「いやだって、荒北も驚いただろ?」
 どうやら隣の人の友人らしく、制止の声が入る。是非そのままちょっかい出させないようにしてくれ。見知らぬ人に話しかけられながら食べるご飯は疲れる。
「そりゃ…ってそういう話じゃねぇだロ」
「なぁなぁ、おめさん、名前なんていうんだ?俺は新開隼人っていうんだ」
「おい、聞けよ!」
 にこにこと笑いながら話しかけてくる新開隼人という男子は、隣の人の声を無視して人懐っこい笑みで「ん?」と無表情で見つめ返す自分に、首を傾げて返答を求める。その仕草が男子だというのに可愛らしく見え、あぁこれが俗に言う甘いマスクとかそういうのだろうか、なんて考えてしまった。サブいぼが立ったのは言うまでもない。
 ていうかまたイケメンかよ。
「はぁ…」
「困ってンじゃねぇか!あー…こいつが悪いね、突然」
「いえ…」
 新開隼人の頭を一発殴ってから、隣の人は簡単に謝罪を入れる。それに軽く会釈して昼食へと戻った。ちらり、と時計をみるとのんびりと食べている暇はなさげで、隣でわぁわぁ騒いでいるのを視界に収めないようにしつつ、気づかれないようにため息をつく。あ、このしょうが焼き美味しい。
「あ、荒北さんだー」
「ゲッ真波…」
 学食にしては美味しいな、と舌鼓を打っていると、どこからか聞いたことのある声が聞こえてきた。一瞬だけ反応するが、声をかけられるはずがないと箸を進める。
「ここ空いてるみたいなんでお邪魔しますねー」
「おぅ、いいぜ」
「他にも席空いてるだろーが。いちいち近くに座ンな、新開も真波も」
「そんな寂しいこというなよ、一緒に食おうぜ?」
「ウッゼ」
「いいじゃないですかーたまにはーって、あれ、高野さん?」
 かたん、と目の前に置かれたおぼんと同時に降ってきた自分の名前に、ぴたり、と箸をとめる。
 硬い動作で目を上げれば、何故か笑顔の隣の席の遅刻した男子がいた。
 てか何でお前名前知ってんだよ。
「真波、知り合いか?」
「はい、隣の席の人です」
「それ知り合いっていうのかヨ」
「あー話したことは一回だけですね」
 その言葉に目を丸くすれば、「あれ?覚えてない?」と首を傾げながら遅刻男子は前の席に座る。いやだからその仕草可愛く見えるイケメン怖い。
「えっと…実は」
「そうなの?ショックだー」
「はぁ、それはすみません」
「本当覚えてない?」
 ずいっと身を乗り出して覗き込まれる。近くなった分だけ身を引けば、隣の人が「あぶねぇから乗り出すナ」と顔を引っつかんで押し戻していた。どうやらこの人、世話焼き属性があるらしく、たぶん苦労人だ。感謝を述べれば「別に」と素っ気無い言葉が返ってきた。
「荒北さん、なに高野さんと仲良くなってるんですか、ずるい」
「ずるいじゃねーよ、オメェらのせいだろうが」
「えーーーー!じゃあ高野さん、俺とも話そうよ」
「俺はお前らの馴れ初めが気になるんだが?」
「あ、そうだった」
 騒々しく言葉をが行きかう様を眺めつつ、次にこの人たちの近くには座るまい席がなかろうとも、なんて硬く決意してご飯を頬張った。いつの間にか目の前の遅刻男子は食事を開始していてすでに半分近く胃に送り込まれており、自分は未だに三分の一程度しか食べれていないという事実に気が遠くなりそうだ。
 ご飯を食べさせてくれ、頼む。
「ついこの間ですよ、俺、こうやって高野さんと向かい合ってご飯食べたんです」
 突然始まった語りにちらり、と前に目をむければ、何故かきらきらと輝いた目で見られている。まるで「思い出した?思い出した?」といわんばかりの光景に、いつぞやかのCMを思い出して少しだけ努力しようかと記憶に検索をかける。
 学食で、ついこの間で、お話をした。なるほど、思い出せない。
「…思い出せてねーみてェだぞ」
 隣の人が代弁する。
「ほんとに?」
 いやごめんもっとがんばるからそんな目を向けないでくださいごめんなさい。
「…かわいこぶる真波はじめてみたぜ」
「気色悪ィ…」
 うーんうーんと唸る自分の隣で、そんな会話がなされていた。これ素じゃないならなんでかわいこぶってんだこいつ、なんて思いつつ、それに意識を持ってかれそうになるのを堪えて検索をかけ続ける。
「…あ」
「思い出した?!」
 遅刻男子にシッポがあったら盛大に振られていただろうと思うぐらいには全身で喜びを表現している様に、ひくり、と体を震わせて少しだけ引いた。隣の席とはいえ、よくも知らない人から全力で懐かれているなんて怖い以外にあり得ない。なんだこれ。
「…なんか、ご飯食べておなか壊したっぽかったから、薬あげたんですよ、ね…?」
 そう、そうだ。ご飯を食べていたら目の前の子が、青い顔して食べかけのご飯を残してどこかへと立ち去ったのだ。そして戻って来て、なにやらご飯を目の前に迷っていて、察した。おなかを壊しているのではないか、と。丁度同じく、少し前におなかを壊して病院へと駆け込んでいたため、人事とは思えずに話しかけ、処方された薬を分けたのだった。
 あぁそうだった。その子は確かにこんな顔をしていたような気がする。
「それ!!大正解!!!」
「ふぅん、優しいんだな、君は」
「あ、いえ、別に…」
 可愛らしい女の子ならばときめいてしまいそうな新開隼人のセリフと顔に、困ったように曖昧に笑う。隣の人は「あ、引いてんな」ていうのはわかったらしく、何も言わなかった。
 遅刻男子はきらっきらした顔で嬉しそうにしているし、たったあれだけが一体どうしてそんな風になったというのだろう。
「俺!あの時めっちゃ困ってて!このままじゃ山のぼりにいけない…てすげー落ち込んでたし痛かったんだけど、あの薬もらって飲んだら嘘みたいに痛み引いて治ってさ!」
「あ、まぁ、病院で処方された整腸剤ですし…」
「すげー助かったんだ!!お礼言おうにもそのときにはもういなくて、あとで隣の席ってわかってもタイミング掴めなくてさ。あの時は本当にありがとう!」
「あ、はい、どうも」
 同情でした行為にここまで感謝されると、なんだか申し訳なくなるのはなんでだろう。全力で向けられる好意に、遠慮がちに頭を下げた。
 そして鳴る、予鈴。
「おい、お前ら予鈴なったゾ。あんたは…ぎり大丈夫そうだな」
「はっはい」
 予定が聞こえた瞬間、残っていたご飯を掻きこんだ。お冷で流し込んで、一息つく。明日こそはのんびりとご飯を食べたい。
「こんな気分いいのに授業なんかやってらんないんで、俺走ってきまーす!」
「あっおい真波!」
「あ、高野さん、俺は真波山岳!よろしくね!」
 去り際に自分の名前を言い置いていき、隣の人の手を掻い潜って颯爽と走っていった。きちんとおぼんを返却台にまで持っていっているあたり、しっかりしているというか抜け目がないというか。
 苛立たしげにため息をつく隣の人を見ると、目があって互いに微妙な空気が流れた。
「あー…馬鹿たちがすまねェ」
「いえ、こちらこそ」
「俺は荒北靖友だ。あいつの先輩ってとこだナ。新開もそうだ」
「自分は高野空です」
「高野さんか、今日は楽しかった。また今度ご飯一緒に食おうぜ」
「いえ、遠慮します」
 イケメンとご飯だなんて目立って仕方がない。やっかみもありそうだし、できれば避けたいところだった。そう思っての返事に、新開隼人は笑った。
「そういわずに食おうぜ」
「そうですか。苦労してますね、荒北さん」
「わかってくれてうれしいヨ」





(疲れたのでここまでで。真波山岳になつかれてみました)
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