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ふらっと徒然に。
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何かとうるさい連中をのらりくらりとかわして、リハビリに徹したの良かったらしい。当初告げられていたリハビリ期間よりも早めに回復したらしく、運動も、バスケもしても良いと、医者からの許しが卒業前に出たのだ。高校へと進学してもしばらくはかかるだろうと言われていたから、随分と早いなぁと思ったのは自分だけでなく、何かと心配してくれていた周りも驚き、喜んでくれた。
 体育会系な自分も喜んでいそいそとランニングへ出かけたり、お世話になっていた道場にも顔を出したりと、久しぶりに自由になった体を満喫した。進学先は無事に決まっていたし、何も心配することもなく日々を過ごした。
 卒業式当日は、それなりに友好を深めていた友達と騒ぎ、高校へいってもたまには集まろうだとか、真新しい携帯を持ってメアドの交換だとか、定番のイベントを笑顔でこなし、少しだけ泣いた。
 そこに彼らの姿はなく、バスケットボールを触ることは一度もなかった。


■■■


 何度経験したかなぁ、なんて思うけどそれほど回数を重ねていないことに気づき、そもそも高校の入学式を何度も体験するなんて可笑しな話だと、そう思い直した。
 ストライプが入った真新しいブレザーは少し大きめで、裾が少し余る程度に作られている。これはまだ成長するだろうという父の見込みだったが、もうしなくても良いというのが正直な気持ちだった。
 バスケはやめた。身長はもう必要ないのだ。バスケに力を入れているとはいえない学校を選んだとはいえ、身長が高いというだけで勧誘されることもあるはずだ。それを考えると、もう打ち止めにしてもらいたかった。毎年の身体測定で数ミリづつ伸びる自分の背が憎らしいったらない。十分、平均身長は越しているのだから、さっさと止まってしまえばいいものを。牛乳を飲むのをやめれば良いのだろうか。
 ぼんやりとそんなことを考えて、やはり牛乳をやめようと、入学式の長い話を上の空で聞き流していた。校長の話だとか、昔から苦手だったんだよなぁ。とにかくお偉いさんの、小難しい話が苦手で集中できた試しがない。いつの世もどの時代も、この辺は変わらないのだと大きく欠伸をした。


■■■


 事前に確認しておいた自分のクラスに移動し、出席番号順に座るようにと黒板に書かれた指示に従って、席を探す。見つけた席はちょうど真ん中らへんで顔を顰めるが、少しだけ窓側よりだったので、廊下側よりはましか、と思い直して座る。
 さて、どうしたものか。体育会系ではあるが、社交性があるとは言いがたく、人見知りの激しい自分が早々にこのクラスになじめるとは思えない。何度繰り返しても根本は変わるはずなく、そのたびにこうして悩んできたが、いつもなんだかんだどうにかなっていたことを思い出す。悩んでいると変な人間に目をつけられ、巻き込まれ、気づくと回りと打ち解けていたりしていたっけ。そういうことが多くて、多すぎて、普通の初対面での知り合い方というのがよくわからなくなっていることに気づいた。
 ざっと教室を見渡すと、今回はそんな変な人間はいなさげであることに喜んだ矢先にこれだ。普通の学生生活を送れるはずのことが、逆に困り果てることになるとは。すっかり毒されている。自分の巻き込まれ体質による非日常に。
 平凡に生きたいと願っておきながら、いざ平凡を目の前にすると戸惑うなんて。ある意味での非日常に慣れすぎたせいだ。
 あぁ、でも、普通の学生生活を送れるなんて、純粋に嬉しいなぁと、口角を緩く吊り上げて始業のチャイムを聞いた。
 新しい生活を送ることになる箱根学園入学式初日は、ぼんやりとするだけで終わった。




(まだ全然決めてなくて、とりあえず入学させてみた。)
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屋上でぼんやりと空を見上げた。青い、雲ひとつない快晴である。手に持ったままのカフェオレを口元に運んで吸い上げる。苦いようで甘い。いまの自分の気持ちとそっくりだ。いや、本当はもっと苦い。苦くて苦くて呆ける程度には、苦い。
 きゅっと眉を寄せて、先ほどの出来事を思い出してつぶやいた。

「なんだよファンクラブって」


***


 恒例のランチミーティングを紫原の膝の上で終え、そのままキセキの連中の雑談をぼんやり聞いていると予鈴が鳴った。
 さて教室に帰らねば、と各々が動き出したとき、屋上の出入り口からこちらを覗いている女の子を発見したのだ。ばちっと目があうとなにやら黄色い悲鳴があがり出入り口が騒がしくなる。
 まだどこぞのモデルが仲間入りを果たしてないから誰に対してだろう、なんて興味もなくただ素朴な疑問が浮かんだが、キセキの連中は驚くほどに顔がいい。性格やらなにやらはともかく、顔は、いい、のだ。
 だからファンなんてたくさんいるかー、と自己完結して立ち上がると、友達と思われる女の子に背を押されて、先ほど目があった女の子がこちらへと近づいてきた。あらあら、顔を真っ赤にしてしまって、よほどキセキの連中らに憧れていると見える。可愛いものだ。
 にやにやしつつ、高みの見物を決めようとさりげなく後ろに下がったときだ。

「たた高野空さん!もし良かったらこれ受け取ってください!クッキーです!あのファンなんです!!」

 すごい勢いで両腕を目の前に突き出され、その先の両手には可愛くラッピングされたクッキーがある。
 女の子は顔といわず耳まで真っ赤にして俯いている。自分は予想外すぎる言葉と目の前の現実に目を大きく見開いて女の子の後頭部あたりを凝視した。その視線にこもる思いは「まじか。本当にか。なぜキセキじゃない」である。
 あまりのことに呆気にとられていると、紫原の「空ちん?」といういつもの声で我に返った。面白そうにしているキセキの連中はとりあえず無視しておき、いつまでたっても受け取ってくれないことに震え始めた女の子の手を包み込むように握った。
 びくり、と反応した女の子に苦笑する。

「ありがとうございます。自分のために作ってきてくれたんですね、うれしいです。でも、怪我には気をつけてくださいね」

 そっと指の絆創膏を撫でるようにして手をさすった。鉄板などで火傷でもしたのだろう。折角きれいな指なのに、あとが残らないといいなぁ。そんなことを考えながらいくつか見える絆創膏を痛ましげに撫でていると、女の子は下を向いたままよろける様に後ずさった。気づくと全身真っ赤になっている。あれ、なんか自分やらかしたか?

「ああああああの!」
「はい?!」

 ばっと勢いよく顔をあげる女の子は涙目だ。顔も真っ赤だ。おいおい大丈夫か。

「あまり作りなれていなくて!一応一番成功したものを包んできたんですけど自信がなくて!もしかしたらお口にあわないかもしれないので捨ててくださっても大丈夫ですから!」
「そんなまさか。おいしく頂きます」

 どこで息継ぎしてんだってくらいに最後は一息で叫ばれた言葉や大きな声と勢いに目を丸くしながら、とっさにそれだけ返した。そうすると女の子は金魚のように口をぱくぱくさせてまた俯き、ずっと握ったままでいた手に気づいて勢いよく引き抜いた。両手を胸の前でぎゅっと握り、間合いをとるかのように重心を後ろへと移動させたかと思うと、

「ありがとうございましたあああーーーーー!!!!」

 そう叫んで屋上から姿を消した。
 なんだったんだ。
 呆然と手に残ったクッキーと、キセキ達の爆笑を背中に本鈴を聞く。

「赤司さん、紫原さん、君達は知っていましたね」
「うんー俺知ってたっていうか気づかない空ちんが可笑しいよー」
「そうだな、俺たちのファンクラブと並んでお前のファンクラブが密かに結成されたことはうわさになっていたからな」
「あぁ・・・そう・・・」

 非常に疲れた。ほんの3分程度だが、本当に疲れた。全身を襲う疲労感にがくっと肩を落とす。

「面白いものをみれたことだし、次の時限はサボっても特に何もいわないでやろう」
「赤司、それは」
「緑間、別にいいじゃないか。このまま授業に送り出してもためにならんだろう」
「む・・・」
「紫原はうまいこと言っておいてやってくれ」
「りょーかーい。空ちんここでのんびりしてなねー」
「あぁ・・・気遣いありがとう・・・」

 紫原の大きな手が頭を撫でる。いつもは嫌がるのだがいまはそんな気力もなく、「あ、これあげるよー間違って買っちゃったんだー」とかいって手の中に追加されたカフェオレをおとなしく受け取った。笑い死にしている青峰の首根っこをつかんで連行している赤司達を見送ってずるずると座り込む。
 そして冒頭へと戻るのである。

「・・・いやいや、なんで自分なの」

 回想して考えてみても疑問しかない。よくわからない。何でだ。何をしたっていうのだろうか。普段どおりに過ごしているのに、ファンクラブとか。長く生きているが初めてだ。そもそも同性のファンクラブって、多感な時期なだけに少し不安になる。
 いくら思い悩んでみても答えはでない。まぁ、でるはずがない。とりあえずはずっと手の中にあるクッキーを食べようと、かわいらしいラッピングを解いた。あぁ、女子力って感じだ。
 ひとつ掴んで、口へと放り込む。

「・・・おいしい」

 もそもそ食べるクッキーは少し焦げた味がした。




===================================================

ファンクラブ作ってみた。
キセキにファンクラブがないのはおかしいかなって思いまして。
あとしおの高校時代に、同じクラスメイトの女の子からいわれた「女子高にいったらモテるよ」という言葉からファンクラブ話にしてみました。
いろんな人生を経て(笑)高校生にしては変に落ち着いているし、変にフェミニストなところがあるので、こうなったって感じにしておいてください。
あー面白かった。
ぐっと膝を曲げてジャンプする。手首のスナップを効かせてボールを回転させながら、ゴールの真上から落ちるようにと放つ。高く、大きな放物線を描いて理想どおりのシュートが決まった。ゴールの網さえ揺らさず、とーん、と真上から落ちるようにボールは鉄の輪を通過する。それが何よりも美しいと思うのだ。

(ま、網が揺れないのはゴールの網が古く大きく伸びてしまっているからなんだけどねぇ)

 古くない網のゴールでは、同じようにいかない。真上からボールが落ちるようにシュートが決まれば、波ひとつない水面に何か物体がまっすぐ落ちたときのように跳ね返る。それはそれで美しいので気に入っているが、ゴールを揺らさないシュートが一番気に入っているのだ。

「美しいな」

 そう、美しいのだ、・・・って。

「おまえのシュートは美しいな、高野」

 Tシャツの袖で汗をぬぐっていると後ろからイケメンボイスで賛辞されたかと思えば、シュバッと良い音を立ててシュートが決まった。てーんてーんてーん、と転がるボールを眺めつつ、なんでこいつが第三体育館に・・・と思わずにはいられない。

「・・・それほどでもないですよ、緑間さん」

 くるり、と振り返ればめがねを押し上げている緑間がたっている。足元にはテティベア。あぁ、今日のラッキーアイテムか。それにしては大きいなぁ。授業中、よく怒られなかったものだ。

「赤司も褒めていた。あいつが褒めることはめったにないし気になったが、言うとおりだったようだ」
「はぁ・・・そう大層なものじゃないんですが」
「・・・ちなみに、俺もあまり人を褒めることはない。好意とは素直に受け取っておくものなのだよ」

 はぁそうっすか。変人にしてはまともなこといいますね。なんていえるはずもなく、「はぁ、ありがとうございます」とだけ返しておいた。お気に召さないのか、緑間はきれいな顔を不機嫌そうに歪めてため息をつき、足元にあったテディベアを抱える。緑間が持つと普通サイズに見えるという不思議。いつも思うけど、君ら大きすぎやしないだろうか。

「なぜこのような設備も整っていない体育館で練習などしているのだ」
「いや、別に・・・」

 君らがいるから第一体育館にはいきたくないんだよ!なんてやはりいえるはずもなく。

「一人で集中したかったんです」

 へらり、と笑って無難なことを返した。その言葉をうけて緑間はさらに不機嫌そうに顔を歪め、「そうか」とだけ言って体育館を出て行く。
 おまえ何しに来たんだよ。

「てっきり黒子さんに用事があるかと思ったんですが、なんだったんですかね」
「さあ・・・でも、僕に用事があるだなんてことはないと思いますよ」

 そもそも僕のこと知らないと思いますし、と緑間が出て行った扉を眺める黒子と顔を見合わせ、もう一度体育館の入り口である扉を見やった。
 なんだったんだ、本当に。

「それにしても高野さんは僕によく気づきますね」
「まぁ趣味とはいえ武道をしているので、なんとなくわかるんですよ」



=============================-

赤司が珍しく褒めていたら興味がわいてみにきたら本当で、ついついここで練習せずとももっといいところで練習したらもっと良くなるだろうに、って思っちゃって口出しちゃった真ちゃんでした。
帰りながらなんであんなこといったのかちょっとよくわからなくなってればいいですね。

いつのまに黒子っちと仲良くなってます。




こういう運命にあるのだと、悟ったのはいつだったか。
 室町時代に流されたときだっただろうか。いや、もう少し前になるのだろうか。そういえば早々に悟ってあきらめたなぁ。所詮自分は彼女のおもちゃなのだと。暇つぶしなんだと、そう思い始めたのはいつだったか。途方もない過去の話だ。
 精々生き延びてやるよ、と思ったのも。

「おはよーございまーす・・・」
「あぁ、高野、おはよう」

 くぁ、と大きなあくびをしつつ、すれ違ったイルカ先生に挨拶をした。眠そうに目をこすっている姿が幼稚なのか、子供好きなイルカ先生は微笑んで「ちゃんと寝なさい」といってすれ違いざまに頭をなでていく。完全なる子供扱いに一発目は戸惑ってしまってたが、すぐに慣れた。世界を跨げば、大体が幼児化している。慣れない筈がないのだ。

「きちんと眠りたいんだけどねぇ」

 今日は夢見が悪かった。起きたら疲れているとか反則である。
 もうひとつ、大きな欠伸をして教室へと入った。この世界で通う、忍者養成アカデミーだ。


 ***


「・・・であるからして、・・・となり」

 授業は思いのほか退屈しなかった。
 だって忍者だよ?忍者。室町時代の忍術学園にも通っていたことはあったが、あれは現実味があり、というか現実味しかなかった忍者だ。こちらはチャクラとかで炎や分身や土や水を操ったりとファンタジー要素が盛りだくさんである。しかもこれが自分で扱えちゃったりするんだぜ?ワォ、なんて楽しいんでしょう!
 なんて思うかよお姉さま。
 黒板に書かれた変な模様と文字とを書き写し終わり、ぼんやりと外を眺める。見上げる空は青くて小鳥なんかが平和に飛んでいる。そう、平和だ。平和そのものがいまの時間軸だ。知る限り、今だけだ。この平和で、平穏で、穏やかな時期は。そのうち戦争へと発展していく。
 戦争。
 この二文字がいつだって纏わりつく。どの世界へと跳んでも、必ず巻き込まれる。そういう星の生まれなのだと思えど、釈然としないのはまだあきらめ切れていないからか。あぁ、確かに平凡に死なせてくれとは思っているから、あきらめきれていないといえばあきらめきれていないのか。でも、平凡に死なせて欲しいだなんて、些細な願いでしょう?なぁ、そう思わない?お姉さま。

「今日の授業はここまで。復習を忘れないように!」

 つらつらと思考を巡らせていると、いつの間にか授業が終わっていた。黒板を見ると良くわからないことになっていたから、どうやら先に進んでいたらしい。あぁ、次の筆記落としたな。ため息をついてノートを閉じる。さて、次は昼ごはんかぁ。

「空!一緒にご飯食べよってばよ!」

 毎朝お弁当を作れるのは教育の賜物だよなぁ、なんて昔お世話になった師匠や先生や先生の世話を焼いていた女の子を思い出して感謝していると、よく通る声でそんな言葉が聞こえてきた。あまりにも大きな声すぎて耳が痛い。

「ナルト・・・隣にいるんだからそんなに大きな声ださなくても良いよ・・・」
「あっ悪かったってばよ!俺、おなかすいちゃっててさぁ」

 申し訳なさそうにえへへ、と笑うナルトにため息をつく。結構面倒くさい子なんだけど、素直でいい子なんだよなぁ。「次から気をつけて」といえば「わかったってばよ!」なんて威勢の良い返事が返ってくる。うん、いい子だ。いい子なんだ、けども、できればいやかなり関わりたくないんだよねぇ。隣で「今日のご飯はーなんと!でっかいボールおにぎりだってばよ!」なんて一人で騒いでいるナルトを横目で眺めつつ、気づかれないようにまたため息をついた。
 この世界はナルトを中心にして動く。なんたって、主人公だから。だからこの子といることで物語の渦中へと巻き込まれてしまう。それはいやだ。できることなら距離を置きまくって回避したい。戦争が起ころうが関係のない、一番被害が届かない場所でこの世界での一生を終わらせたい。そう考えているのなら、まず火影の加護の下でこのアカデミーに通っているのは矛盾が生じるのだけど、卒業までの我慢だ。まずこの世界で身を守る術を覚えておかないとのたれ死ぬのが目に見える。自分は平凡に生きて平凡に死にたいのだ。
 そう、平凡に、死にたいのだ。

「空は毎日きれいなお弁当だな。自分で作ってんのか?」
「あ、うん、まぁ・・・」
「へぇー俺と一緒で一人なのにすごいってばよ!」
「そ、そうかな・・・」
「火影のじっちゃんがさ、空を見習えってすっげーうるせぇの。でもじっちゃんの言ってる意味、なんとなくわかったってばよ!」

 にこーっと笑っておにぎりを頬張るナルトに苦笑する。
 困ったことに、懐かれているのだ。一番接触を回避したいナルトに。理由はなんとなくは察しているが、これは喜ばしくない流れである。しかも目立たず影を薄くを心がけたいところなのに、ナルトといることで目立ってしまっているし、本当に困った。
 どうしたものか、とナルトの話に適当に相槌を打ちながら聞き流してお弁当を食べる。
 ちらり、とナルトの後ろ、教室全体を見渡すが、やはりよくない感情を含んだ目やひそひそ話が頻発していた。ナルトの立場やこのアカデミーでの扱いを考えると、こうなることはよくわかる。昔から気に食わないとは思っていたが、実際に近くで体感してみると本当に気に食わない。
 困ってはいる。困ってはいるが、気に食わないものは気に食わない、のだ。

「・・・ナルト、おにぎりだけなの?」
「おう!俺、料理できないんだってばよ」

 いつかはさようならをするのだけど。

「だから自分から料理しないと上達しないよ?朝ちゃんと起きなよ」
「だって眠いんだもん」
「起きなさい」

 自分がどう思われてしまうなど、もう遅いのだ。ならば、せめて普通に、公平に接してやろうと思う。

「んー・・・俺、料理、苦手なんだってばよ・・・」
「・・・今度料理の本、貸してあげるよ」

 絆されたわけじゃ、ないんだよ?
 どうしてこうなってしまったのかなんて考えたくもない。

「それではこの合宿の間、マネージャーを務めてくれる高野空さんだ」
「高野さん、ご挨拶よ」

 諸悪の根源は綺麗な顔をして笑っている。
 西園寺玲。どこかで聞いた名前だとは思っていたけど、まさか、そのまさかだなんて思うはずもないじゃないか。

「えー・・・、はじめまして。この選抜合宿の間、マネージャーを努めさせて頂きます、高野空と申します。よろしくお願いいたします」

 ガタン、と椅子から立ち、ざっと見回して簡単に名乗り、最後に一礼して座る。隣の西園寺玲は上出来、とばかりににこにこ笑ったままだ。こちとら突き刺さる視線や「誰こいつ・・・」「女・・・?」とか漏れ聞こえてくる声に仏頂面になりたいのを我慢して無表情だというのに。
 バレないようにじろり、と西園寺玲を睨めば、にこり、と笑って立ち上がる。
 おい。何をする気だ。

「みんな、静かに。彼女はサッカー選手ではないにしろ、スポーツに携わる人の一人です。みんなのことをある程度は理解し、サポートしてくれるはずです。監督も私も面接をして決めたマネージャーよ。安心してくれて良いわ」

 面接も何もないだろう。若干青い顔をして咳払いしてるあのメタボとは今日初めてついさっき会ったばかりだぞ!!

「では選抜合宿を開始します。みんな、がんばってね」

 綺麗な顔をした悪魔のせいで更に居心地が悪くなったのはいうまでもない。


***


 コーチに従い、ドリンクとタオルの準備をする。うら若き少年達は好奇心と猜疑心の視線を突き刺してグラウンドへと向かっていった。西園寺玲があんなことをいったばかりに、少年たちの興味を一身に集めることとなってしまった。やってられない。
 選抜合宿というのだから、ここに残った少年達はそれなりにサッカーが上手く、そのことにプライドがあるだろう。努力もしてきただろう。なのに突然現れた見たこともない人間の、しかもサッカーを知らない人間のサポートを受けろといわれて納得するだろうか。いや、しないだろう。先ほどの雰囲気から察するに。お前俺らについてこれんの?本当にサポートできんの?という疑いの目がほとんどだ。西園寺玲め。こんなところに引っ張り込みやがったかと思ったらこれだ。父よ、なぜ西園寺玲の誘いに乗ったんだよ。

「おい」

 ため息をついてがしゃがしゃとドリンクを振っていたときだ。後ろから声をかけられた。面倒だから放置してドリンクを造り続ける。

「おい。呼んでんのが聞こえないの?お前のその耳はなんのためについてんの?ボケるには早くない?見たところ僕らと同じ年齢だろ、分別がつく年齢なんだから相応の反応したらどうなわけ」
「すみません、明らかに不機嫌そうな声だったので反応するのをためらってしまいました。それに呼びかけられただけでは自分に対してなのかよくわかりません」
「は?この場にはお前しかいないだろ。そのぐらい察したらどうなの」
「自分はこちら側を向いているので後ろなんて見えませんし、誰かいてもおかしくないでしょう」

 気配でわかるけど。まぁ普通はわからないよね。

「・・・はぁ、マネージャー」
「なんでしょうか」

 このやり取りをしている間、頑なに振り向かずドリンクを作っていたら相手が折れた。だって急いでいるし、ぶっちゃけ相手にしている暇はない。
 くるりと振り向いて、ため息をついた。やはりか。

「僕は椎名翼。こっちが黒川。っておい、笑ってんなよ」
「すまん」
「はぁ、すでに知っているは思いますが私は高野空といいます。なにか用でしょうか」

 椎名翼。一番面白そうに自分をみていた人間だ。こいつは気に入られなければかなり厄介だなぁ。めんどくさいのでそんなことはしないが。あぁ、いやなところに突っ込んでくれたな、父よ。

「玲が連れてきたから確かなんだろうけど、お前、なんでここにいる?」
「西園寺さんに頼まれたので」
「へぇ、それ以外に意味はないって?」
「・・・えぇ、まぁ」

 最後の一本を籠に放り込みながら肯定すれば、椎名翼が思いっきり顔を歪めた。なるほど、どうやらこのやる気のなさが気に食わないらしい。少年たちとしてはこの選抜に本気で挑んでいるのだから、中途半端なサポートで逆に邪魔すんなよ、とでもいいたいのだろうか。

「安心してください。頼まれたからにはきちんとサポートしますし邪魔はしません」

 何かいわれる前にそう言い放ってやった。ぐっと押し黙る椎名を一瞥し、籠を抱えてその場を離れる。
 あーぁ、これで面倒なことになったかなぁ。でも適当なこといって仲良くなるの面倒だし、まぁいいか。
 

***


 突き刺さる視線を無視してボールを集める。自分がサッカーをしていたなら練習がてら、ボールを蹴り上げて籠に入れるのだろうけど、残念ながら自分はバスケットボール選手だ。おとなしく手で拾うことにしているが、それではつまらないのでシュートの要領で片手で籠に放っている。いまのところパーフェクト。はずした数だけ走り込みを増やすか。
 そんなことを考えながらひたすらボールを集めては籠に放る。椎名から突き刺さる視線は無視だ無視。

「・・・おい翼、あいつ」
「そうだな、外してないしまじめにやってる」
「・・・わかってんならそんなに睨まなくても良くないか」
「誰が」

 丸聞こえだぞ、少年たちよ。


***

 グラウンドが騒がしい。取ってくるようにいわれた資料を抱えて急いできてみればなぜかグラウンドが騒然としている。少年達の声がうるさい。いったい何が、

「西園寺さ、」
「あ、空ちーん」

 西園寺玲に駆け寄って話しかけようとしたら妙な呼び方で呼ばれた。こんな妙な呼び方をするのは、一人しか知らない。
 ばさばさ、と足元に抱えていた資料を落として、ゆlるくりと振り返る。先ほどは遠くから聞こえてきたのに、振り向いたらもう目の前にいた。

「む、紫原、ぅげ」
「空ちーん、あいにきたよー」

 馬鹿みたいに背の高い紫原に包み込まれるようにぎゅう、と抱きしめられる。ていうかつぶれるつぶれる!!身長差を考えろ紫原!!

「あー!!紫原っちずるいっスよ!!!俺だって空っち抱っこしたいっス!!!」

 犬が背中のほうから抱きついてきて紫原と犬にサンドイッチにされた。てか黄瀬、やはりお前も来てたのか。

「ていうかお前ら苦しいやめろ!!!みんな止めてよ!!!」

 紫原の胸に埋まっていた顔をどうにかずらして叫んだ。叫んだ先では赤司様が腕を組んで面白そうにこちらを見ている。クソ面白がってやがるあの魔王様が。緑間はあきらめているのか、ラッキーアイテムらしきぬいぐるみを抱えなおしている。・・・めっちゃ大きい男がぬいぐるみとは・・・。いや、やめておこう。青峰に至ってはだるそうに赤司の隣に立っているだけだ。クソが!!頼りにならねぇ。

「く、黒子さあああん」
「はい、なんでしょう」

 最後の頼みの綱、とばかりに叫んでみたらすぐ隣から声がした。びっくりした。いつもなら気配でわかるのだけど、今の混乱した状態では気づけなかったようだ。

「ほら、黄瀬くん、離れてあげてください。紫原くん、・・・は離したくないならせめて腕を緩めてあげてください。高野さんが窒息してしまいますよ」
「ちぇーっ、黒子っちがいうなら仕方ないですけど、紫原っちばかりずるいっスー!」
「黄瀬ちんうるさい。ひねりつぶすよ?」
「こらこら紫原くん。黄瀬くんも、紫原くんはよく我慢したほうですよ?」

 ぎゅーっと抱きしめたまま、というか抱えあげられている状態なわけだが、これで我慢したというのだろうか。いつもよりスキンシップが激しいのだが。

「それはしばらく高野さんに会っていなかったので、爆発した結果です」
「あぁ・・・そうですか・・・」

 心読まないくれるか、黒子さん。
 いえ、つい。

「紫原さん、久しぶりですね」
「空ちんーほんとだよーなんでこんなとこにきちゃってんのー?」
「それは君らに言いたい。ていうか、ごめん・・・怖いから下ろして・・・?」

 なんで?という顔に一発ぶちかましてやろうかと思った。いま現在、紫原と顔の位置が同じところにある。つまり、人間の日本の腕に支えられて地上から非常に高い位置にいるわけだ。不安定すぎて怖い。それに周りを放置してのこのやり取りのせいで、グラウンドが怖いくらいに静まり返っている。怖い、怖すぎる・・・。視線が痛いったらありゃしない。

「やーだー」
「やだじゃありません。いま、この合宿でのマネージャーをしているんです。ちゃんといいましたよね?お仕事あるんです」
「えー・・・」
「赤司さん」
「紫原、下ろしてやれ」
「・・・あとでお菓子ちょーだい」
「はいはい」

 やっと下ろしてくれたけど、ぴたっと横に張り付いて離れない。なんでそんなに懐いてんだよ。ていうか。

「主犯は赤司さんですね」
「おや、疑問符さえつけてくれないのか」
「必要がどこに」
「ないね。正解だから」
「・・・とりあえず説明をしてください。西園寺監督にも」
「いいだろう」

 あぁ、先が思いやられる。




*************

最後ごめんなさい、だれた。
ずっと考えていたのを形にしてみました。笛!×黒バス。
年代違いますけどパラレルワールドっていうこととサッカーとバスケってことでいけるだろ!!!ていう適当な感じで妄想してました。
書きたいところ書いたので、もうこれ以上書くことないでしょう。楽しかった!!!



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