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ふらっと徒然に。
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不自然な時期に一斉に行われた健康診断に首をかしげながらも、国の意向であるといわれてしまえば逆らうわけにもいかない。費用は国持ちだというのだし、どうせ深く考えても良く分らない。懐も痛くはないし、午前中で終わりその後は帰っても良いと告げられれば更に深く考える理由など見つからない。ぽっかりと空いた午後の時間になにをしようかなぁ。ラッキーだとうきうきしたまま、いわれるがままに健康診断を受けた。
 内容はひどく簡単で、採血と脳波測定。あとはよく分らない問診と、受けたこともない測定をされた。
 あれはなんだったんだろうか。全身によくわからないコードにつなげて、やはりよく分らない問診をここでもされた。意味がわからない。とにかく普通の健康診断ではないのは確かだった。政府は何がしたいんだ。そんな疑問と一緒に問われる良く分らない簡単な質問に、思ったことをそのまま告げて、解放されたあとは忘れた。
 覚えていたって仕方ない。きっと自分に関係ないのだから。
 その日の午後は家にすぐ帰り、積んでいた本やゲームを消化した。

***

「社長がお呼びです」
 最近雇われた、ちょっと天然な社長秘書の可愛らしい女性が、にっこりと笑って呼びに来た。
 入社してからそれなりの古株ではあるが、しかし人事部のヒラ社員をしている自分に、いまさらなんの用だというのだろうか。入社してしばらく、一人部署で社長と二人三脚をして仕事をしていた時期など随分と昔になる。本当、なぜ、一切の関わりがなくなった自分を呼ぶというのか。何か問題があれば人事部長を通じてお叱りがくるはずである。
 変だなぁ、なんて思いながら、仕切りもなにもない小さなオフィスから成長を遂げた、立派な社長室へと向かった。
「あぁ、よくきた」
 恰幅の良い、若い頃はさぞかしモテただろうと思う社長が、笑って出迎えてくれた。自分も笑い返す。
 そこまではいつも通り。
 ちらり、と上座の位置になる場所に座る人に目を向ける。
 来客中だったらしく、かっちりとしたスーツを着込んだ老人が座っていた。
 軽く会釈する。老人も無表情なまま、会釈を返してくれた。
 不思議に思いながら顔にはださず、手を招いて呼ぶ社長のすぐそばまでいく。社長が席を立つ。「座りなさい」「あ、はい」何事だ本当に。社長の座っていた場所に腰を下ろした。ソファーが沈む。
「それではあとはよろしくお願いいたします」
 おい社長何をいっていやがる。
「こちらは警視総監である■■■様だ。君に用があるとのことだ。詳しくはこの方から聞きなさい」
 警視総監。
 警視庁のトップではないか。
 そのことに目を丸くして、驚きすぎて名前が聞き取れなかった。
 社長は表面上にこやかに席を立つ。向けられる目には要約すると「お前大丈夫か」という感情が前面に出ていたが、社長はそれ以上は何も言わず退出してしまった。
 警視総監。なるほど。社長室が応接室へと早代わりするのも頷ける。
 表情を硬くしたまま、少し斜め前に座る警視総監へと目を向けた。
「単刀直入で言わせて頂きます」
「あ、はい」
 人生、終わったのかな。
 そんなことを思う。
「あなたは政府の行う特殊能力保有調査にて高い数値をだし、選抜された審神者です」
「は?」
「日本の過去を守って頂きたい」
 やはり、自分の平凡な人生は終わっていたらしい。




===============================================
刀/剣//乱///舞プレイ中です。
なのでついつい書いて見ました。社会人審神者です。まずは導入編~。
ここから短編形式に刀剣男士たちとの日常とか戦いを書いていければなーと思います。

推し刀剣たちは岩融(弁慶薙刀)と今剣(義経守り刀)、太郎次郎兄弟、左文字兄弟とかあのへんが好きです。左文字兄弟は完全なる支部と友達の影響ですけどね!太郎次郎は実際に一軍にいれていて愛着沸いてる感じです。へへ……。
結構なヘビー審神者です。
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修羅場抜けたので顔出しにきてみました。

今日はMANAMIONLYのイベントでした。(検索避けにローマ字にしてます)
というわけで、山坂新刊出してきました。
軍パロかいてました。
私、少女小説で育っているので、ファンタジーってめっちゃすきなのでめっちゃ楽しく書きました。ガチファンタジー。しかもオリジナル。本当楽しかった・・・・。
でも途中でスランプに陥るし、張った伏線は回収し損ねてるし、製本してからこここうすればよかったっての多々でてきて課題がたっぷり残りました。次だすときはがんばらないとなぁ~。
添削頼んだ友達は、軍パロ好きだというのもあるんですけど、めっちゃおもろいよ!ていってくれたので、かいてよかったなーて思います。

ここでペダルネタ書いてますけど、ぶっちゃけ山坂が至高すぎて、妄想はすれど真波がこっちを向いてくれません。坂道くんに全力です。なんなんだ真波。難しいぞ真波。すきだ真波。
ということでしばらく山坂で主に支部や即売会などで活動してると思います。
最近の即売会ってすごいのね、ついったーで繋がってるせいか、みんな顔出しにきてくれて、差し入れしてくれて、なんか、オフ会みたいに知り合いが増えていきます。
めっちゃ楽しいです。

文字書きさんとお話できる機会が増えて、すごく刺激になります。
さすがに夢書きさんではないのですが(山坂クラスタなので山坂書きさんとお話ばっかしてる)、みなさん素敵な文字書きさんでお話できて楽しいです。
これまで内側にこもって買い専でいたので、サークルとして活動してこんなに違うものかと思います。世界が広がっていく感覚がとても良い感じです。
狭い世界に引きこもってたんだなぁ~で思ってそれじゃだめだな!て思う毎日です。
外に出よう外に。世界はとても楽しいんだぜー!て頭悪い感じでヒャッハーしてます。

そんな近況報告でした。

『どこで合流するの?』
『てかあんたいまどこなの』
『パチと一緒にいる』
『つまり?』
『チャリ部部室』
『行くわ』
『はーい』
 一分もかからずでやり取りされた必要最低限な会話を読み直し、スマホを切った。真っ暗な画面になったことを確認してポケットに突っ込み、向かう先を部室が並ぶ区域へと変更する。
 入学式は一緒だったが、クラスは別だった。しばらくはクラスに慣れるために別行動を取っていたとはいえ、何かと一緒だったため、とても久しぶりな気がする。しかしパチと一緒と聞いて少しだけ嫌な予感がした。面倒なことになっていないといいが、どうなっていることやら。
「面倒ごとは好きじゃないんだよなぁ」
 ぼそり、と呟いて見えてきたチャリ部部室にため息をついた。





 ドアにノックするとすぐに開いた。と同時にふわり、と良い香りが漂い、腕の中に女の子が飛び込んできた。突然にも関わらず、きっちりと抱きとめる。
「空ーーーー!」
「はいはい奈津さん数日ぶり」
「クラス溶け込めた?!私いないけど平気?!あぁ心配だよ空ってば変人だから!」
「あのねぇ…言いたいことはわかるけど自分は奈津のほうが心配だよ…」
「え?そう?案外良い感じだよ」
 肩口にぐりぐりと額を押し付けていた奈津の頭を撫でてため息交じりにそういえば、きょとんとした声が返ってくる。そして少しだけ体を離してにっこり笑う奈津は本当に血縁かと思うほどに可愛らしい。可愛らしいからこそ心配だ。クラスの人たちが。
「空」
「あ、パチ、久しぶり」
 なにやら眉を寄せて近寄ってくる幼馴染に、簡単に挨拶する。
「あぁ、久しぶりだ。っとその前に、お前たち水臭いぞ!ここに通うなんて一言も聞いてなかったんだぞ俺は!」
「え?奈津が話したんじゃないの?」
「びっくりさせたくて秘密にしてた!」
 悪びれもなくいう奈津に「あぁそう…」とだけ返してパチこと東堂尽八に諦めろという目を向けた。パチはため息をつきながらも仕方ないな、といわんばかりに小さく笑う。
「んで、この惨状はなに?」
 できるだけ気にしないでいたが、いや、完全に無視していたが、そろそろ突き刺さる視線にそれが難しくなっていたため直球で聞いた。奈津とパチの後ろにはどんよりとした重たい空気があり、部室内の人は例外なく疲れた顔をしている。なんとなく、なんとなく察しはつくが、事情を聞かなければならないだろう。払拭できるのはたぶん自分だけだ。
 どうなの?と二人に目を向ければ、奈津とパチは目を合わせて同じタイミングでこちらを見る。さすが小さい頃からつるんでいるだけある同調っぷりだ。
「奈津が部室にきて」
「久々の再会を楽しんでたら」
「「こうなった」」
「なるほど理解した」
 すっと何気ない動作で自分から離れ、パチの体に手を回す奈津と、当たり前だといわんばかりの自然な動作で奈津の肩に手を回すパチに盛大なため息をつき、チャリ部に同情した。
 バカップルの意味不明な言動に振り回されたわけだ。もう一度ため息をつき、こちらを伺って突き刺さる視線に遠い目をする。振り回されるのは慣れた。慣れたが、いい加減二人で場を収めてくれないだろうか。切実に、そう思う。
 米神を押さえつつ、気分を入れ替えるために大きく息を吐き出した。
 顔をあげて、自体の収集をするためにパチの顔をみる。あぁ美形だな相変わらず。
「パチ、チャリ部のキャプテンは?副キャプでもいいや」
「いまはいないな。副キャプはいる」
「じゃあ副キャプ紹介して」
「なんだ?」
「え?いやだから、副キャプ」
「だから、なんだ?」
「…」
 かみ合わない言葉に互いに首を傾げるが、もしかして、いやそんな、でもそうとしか。
「…パチ、副キャプ?」
「あぁ!いかにも!」
 自信満々な笑みを浮かべるパチに、卒倒しそうだった。
 おいチャリ部…大丈夫か…。





「お前らダレ?」
「東堂尽八の幼馴染です」
「同じ顔ってーことは?」
「双子ですね。一卵性の。髪の長さで判断してください」
「アイヨ。あいつらの関係性は?」
「結婚する仲です」
「それは聞いたヨ。付き合ってんの?」
「付き合ってないです」
「ナンデダヨ」
「結婚する約束はしてますし、互いに互い以外あり得ないと決めてます。それだけで付き合ってはいないんですよ…」
「いや付き合うダロそこは…」
「本人たちがそうじゃないっていうなら、そうなんじゃないですかね…」
「意味わかんネェ…」
 目の前で頭を抱える、この間知り合った荒北靖友に哀れみの目を向けた。
 とりあえず話がわかるやつ、そしてキャプテンに近しい人という条件で人を呼んでもらったら、ついこの間知り合ったばかりのこの人がでてきたため互いに驚いた。
 荒北靖友は突然訪れた奈津にまず驚き、自分と勘違いしてかみ合わない会話に首をかしげ、そしてパチと奈津のゲロ甘い掛け合いに部室の隅で死んでいたらしい。気持ちはわからなくないので「ご愁傷様です」と声かければ「ありがとネ…」なんて案外素直な言葉が返ってきた。それほどにダメージはでかかったということらしい。
 部室のど真ん中の机に向かい合い、周りにも聞こえるように聞かれた内容について答えていくが謎が深まるばかりのようで、部室内の空気は不可思議なものへと変化していく。全員が全員、あまり理解できないとばかりに頭を悩ませているようだった。やはり気持ちはわかるので、相変わらず周りを気にせず二人で話をしている奈津とパチに「大人しくしてないさい」と声をかけた。
「まぁ将来誓いあってるんで、バカップルだって思っとけば解決じゃないですかね」
「んー…まぁそうだろうナ…そうするワ…」
 もう頭を悩ませるのが面倒になったらしい荒北靖友は、適当に相槌を打って話を終わらせようとする。周りも諦めてきたらしく、各々の行動へと戻っていった。
「んじゃ、帰りますね。奈津」
「はーい。パチ、またね」
「あぁ!また明日」
 呼べばあっさりと離れた二人に、荒北靖友は意外そうにみやる。隙あらばさり気なく寄り添う二人をみていれば、もう少し惜しむだろうとでも思ったのだろう。それに小さく笑って、かばんを持った。
「ただのバカップルじゃないんですよ、将来誓いあった二人ってことです」
「あぁー…よくわかんねーけど、なんとなく察したワ」
「それで十分です。全部付き合うと疲れますよ」
「なァにィ?経験者は語るってやつゥ?」
「そうです」
 にこり、と笑って言えば、引きつった笑みを浮かべる。
「あれと一生付き合ってかないといけない自分を察してくださいマジデ」
「いやほんとワリィ」





(知りきれトンボごめんなさい、時間なくなった。Wヒロインでした。東堂固定です。あと真波予定)
とりあえず前後の女子に話しかけてみようと、緊張しながら声をかけたのは入学式の翌日。その子から広がってそこそこにクラスの女子と会話をするようになったのはその数日後。これで移動教室だのペアだのは安心だな、と思った矢先の出来事だった。
「遅刻しましたー」
 そういって堂々と、教室の前のドアから入ってきた男子に視線が集まる。授業を開始して十数分は立ち、しかもいまは二時限目だった。遅刻は遅刻なのだが、そんなに堂々としていていいのだろうか、と教卓の近くで叱られている男子を呆れたように見る。遅刻理由に「良い坂があったので」とか意味のわからない理由を述べているあたり、あぁこれは関わらないほうがいいな、と悟った。
 人のことは言えないが、変な人に関わるとあまり良いことはなかったから仕方ないことだろう。
「もういい、席につきなさい」
「はーい」
 叱っても無駄だと判断したらしい教師が、ため息をつく。遅刻した男子はへらへらと笑っているし特に気にした様子もないので、正しい判断だといえよう。あとで教育指導係から呼び出し食らうだろうな、なんて考えていたら、その男子はあろうことにも自分の隣の席に座ったのだった。
 軽く目を見開いて、ちらり、と隣を見る。
 爽やか系イケメンだった。
 さっきの変なところがなければ、人気がでるだろう男子だ。いや、それでも人気はでそうだ。
 イケメンは得だよなぁ、なんてぼんやり思って、意識を授業へと集中させた。頭のつくりは良くないが、この学校へと入れてくれた両親のためにそこそこの成績を叩き出さなければならないのだ。こんな、本能が訴える"関わってはいけない人間"に構っている暇などない。
 そうやって隣の存在を除外していたために気づかなかった。爽やか系イケメンがちらり、と自分を見たことに。


■■■


 生徒の半分以上が寮生活な箱根学園には、その生徒のために学食が存在している。自宅から通う生徒は弁当という暗黙のルールがあるのか、利用するのは寮生活をしている生徒が大半だ。稀に弁当を忘れてきたり家庭の事情から学食を利用している生徒がいるが、寮に所属しない生徒はほぼ弁当を持参しているというのだから、校則にでも書かれているのだろうかと生徒手帳を確認したのは記憶に新しい。特に記載はなかった。
 ぴっと券売機で目的の食券を買い、列に並ぶ。何度か学校へと通ってはいるが、学食は初めてだなぁ、と待ち時間の退屈さに欠伸をした。
 仲良くなった子たちは弁当持参組だったため、昼ごはんは一人寂しく過ごすことになった。気を使ってくれようとしたが、それは丁寧に辞退した。弁当は彼女らの母親が作っているんだろうし、自分の都合でそれを無駄にはさせたくなかったのだ。そのぐらいなら一人でご飯ぐらい食べるわ。そんな意気である。女子特有の群がり症候群のようなそれは自分にはもうない。あぁでもこれじゃあ浮くかなぁ、と本日の昼食である和食定食のおぼんを持ちつつ、席を探した。適度にあわすことも必要だな。現代社会の面倒なところだ。
 空席を一つみつけ、隣の人に声をかける。
「すみません、ここ良いですか?」
「アッ?!…あぁ、かまわねェヨ」
「ありがとうございます」
 眼光鋭く返事され、びっくりしてしまったが了承の言葉は返ってきたので、そのまま座る。そのことに隣の男子は、器用にも片眉をあげて驚いているようだった。察するに、あぁいう対応がデフォなのだろう。だから良いといって座る人はあんまり居なかったための反応のようだ。あの程度でびびるほどではないのだが、あんまり度が過ぎるとやはり浮くなぁ。…面倒だから諦めよう。
 ぱん、と手を合わせて「いただきます」と言い、昼食に手をつける。斜め前から突き刺さる痛い視線は無視だ。
「おめさん、すごいな」
 できなかった。
「おい、新開。いきなり話しかけてんじゃねェヨ」
「いやだって、荒北も驚いただろ?」
 どうやら隣の人の友人らしく、制止の声が入る。是非そのままちょっかい出させないようにしてくれ。見知らぬ人に話しかけられながら食べるご飯は疲れる。
「そりゃ…ってそういう話じゃねぇだロ」
「なぁなぁ、おめさん、名前なんていうんだ?俺は新開隼人っていうんだ」
「おい、聞けよ!」
 にこにこと笑いながら話しかけてくる新開隼人という男子は、隣の人の声を無視して人懐っこい笑みで「ん?」と無表情で見つめ返す自分に、首を傾げて返答を求める。その仕草が男子だというのに可愛らしく見え、あぁこれが俗に言う甘いマスクとかそういうのだろうか、なんて考えてしまった。サブいぼが立ったのは言うまでもない。
 ていうかまたイケメンかよ。
「はぁ…」
「困ってンじゃねぇか!あー…こいつが悪いね、突然」
「いえ…」
 新開隼人の頭を一発殴ってから、隣の人は簡単に謝罪を入れる。それに軽く会釈して昼食へと戻った。ちらり、と時計をみるとのんびりと食べている暇はなさげで、隣でわぁわぁ騒いでいるのを視界に収めないようにしつつ、気づかれないようにため息をつく。あ、このしょうが焼き美味しい。
「あ、荒北さんだー」
「ゲッ真波…」
 学食にしては美味しいな、と舌鼓を打っていると、どこからか聞いたことのある声が聞こえてきた。一瞬だけ反応するが、声をかけられるはずがないと箸を進める。
「ここ空いてるみたいなんでお邪魔しますねー」
「おぅ、いいぜ」
「他にも席空いてるだろーが。いちいち近くに座ンな、新開も真波も」
「そんな寂しいこというなよ、一緒に食おうぜ?」
「ウッゼ」
「いいじゃないですかーたまにはーって、あれ、高野さん?」
 かたん、と目の前に置かれたおぼんと同時に降ってきた自分の名前に、ぴたり、と箸をとめる。
 硬い動作で目を上げれば、何故か笑顔の隣の席の遅刻した男子がいた。
 てか何でお前名前知ってんだよ。
「真波、知り合いか?」
「はい、隣の席の人です」
「それ知り合いっていうのかヨ」
「あー話したことは一回だけですね」
 その言葉に目を丸くすれば、「あれ?覚えてない?」と首を傾げながら遅刻男子は前の席に座る。いやだからその仕草可愛く見えるイケメン怖い。
「えっと…実は」
「そうなの?ショックだー」
「はぁ、それはすみません」
「本当覚えてない?」
 ずいっと身を乗り出して覗き込まれる。近くなった分だけ身を引けば、隣の人が「あぶねぇから乗り出すナ」と顔を引っつかんで押し戻していた。どうやらこの人、世話焼き属性があるらしく、たぶん苦労人だ。感謝を述べれば「別に」と素っ気無い言葉が返ってきた。
「荒北さん、なに高野さんと仲良くなってるんですか、ずるい」
「ずるいじゃねーよ、オメェらのせいだろうが」
「えーーーー!じゃあ高野さん、俺とも話そうよ」
「俺はお前らの馴れ初めが気になるんだが?」
「あ、そうだった」
 騒々しく言葉をが行きかう様を眺めつつ、次にこの人たちの近くには座るまい席がなかろうとも、なんて硬く決意してご飯を頬張った。いつの間にか目の前の遅刻男子は食事を開始していてすでに半分近く胃に送り込まれており、自分は未だに三分の一程度しか食べれていないという事実に気が遠くなりそうだ。
 ご飯を食べさせてくれ、頼む。
「ついこの間ですよ、俺、こうやって高野さんと向かい合ってご飯食べたんです」
 突然始まった語りにちらり、と前に目をむければ、何故かきらきらと輝いた目で見られている。まるで「思い出した?思い出した?」といわんばかりの光景に、いつぞやかのCMを思い出して少しだけ努力しようかと記憶に検索をかける。
 学食で、ついこの間で、お話をした。なるほど、思い出せない。
「…思い出せてねーみてェだぞ」
 隣の人が代弁する。
「ほんとに?」
 いやごめんもっとがんばるからそんな目を向けないでくださいごめんなさい。
「…かわいこぶる真波はじめてみたぜ」
「気色悪ィ…」
 うーんうーんと唸る自分の隣で、そんな会話がなされていた。これ素じゃないならなんでかわいこぶってんだこいつ、なんて思いつつ、それに意識を持ってかれそうになるのを堪えて検索をかけ続ける。
「…あ」
「思い出した?!」
 遅刻男子にシッポがあったら盛大に振られていただろうと思うぐらいには全身で喜びを表現している様に、ひくり、と体を震わせて少しだけ引いた。隣の席とはいえ、よくも知らない人から全力で懐かれているなんて怖い以外にあり得ない。なんだこれ。
「…なんか、ご飯食べておなか壊したっぽかったから、薬あげたんですよ、ね…?」
 そう、そうだ。ご飯を食べていたら目の前の子が、青い顔して食べかけのご飯を残してどこかへと立ち去ったのだ。そして戻って来て、なにやらご飯を目の前に迷っていて、察した。おなかを壊しているのではないか、と。丁度同じく、少し前におなかを壊して病院へと駆け込んでいたため、人事とは思えずに話しかけ、処方された薬を分けたのだった。
 あぁそうだった。その子は確かにこんな顔をしていたような気がする。
「それ!!大正解!!!」
「ふぅん、優しいんだな、君は」
「あ、いえ、別に…」
 可愛らしい女の子ならばときめいてしまいそうな新開隼人のセリフと顔に、困ったように曖昧に笑う。隣の人は「あ、引いてんな」ていうのはわかったらしく、何も言わなかった。
 遅刻男子はきらっきらした顔で嬉しそうにしているし、たったあれだけが一体どうしてそんな風になったというのだろう。
「俺!あの時めっちゃ困ってて!このままじゃ山のぼりにいけない…てすげー落ち込んでたし痛かったんだけど、あの薬もらって飲んだら嘘みたいに痛み引いて治ってさ!」
「あ、まぁ、病院で処方された整腸剤ですし…」
「すげー助かったんだ!!お礼言おうにもそのときにはもういなくて、あとで隣の席ってわかってもタイミング掴めなくてさ。あの時は本当にありがとう!」
「あ、はい、どうも」
 同情でした行為にここまで感謝されると、なんだか申し訳なくなるのはなんでだろう。全力で向けられる好意に、遠慮がちに頭を下げた。
 そして鳴る、予鈴。
「おい、お前ら予鈴なったゾ。あんたは…ぎり大丈夫そうだな」
「はっはい」
 予定が聞こえた瞬間、残っていたご飯を掻きこんだ。お冷で流し込んで、一息つく。明日こそはのんびりとご飯を食べたい。
「こんな気分いいのに授業なんかやってらんないんで、俺走ってきまーす!」
「あっおい真波!」
「あ、高野さん、俺は真波山岳!よろしくね!」
 去り際に自分の名前を言い置いていき、隣の人の手を掻い潜って颯爽と走っていった。きちんとおぼんを返却台にまで持っていっているあたり、しっかりしているというか抜け目がないというか。
 苛立たしげにため息をつく隣の人を見ると、目があって互いに微妙な空気が流れた。
「あー…馬鹿たちがすまねェ」
「いえ、こちらこそ」
「俺は荒北靖友だ。あいつの先輩ってとこだナ。新開もそうだ」
「自分は高野空です」
「高野さんか、今日は楽しかった。また今度ご飯一緒に食おうぜ」
「いえ、遠慮します」
 イケメンとご飯だなんて目立って仕方がない。やっかみもありそうだし、できれば避けたいところだった。そう思っての返事に、新開隼人は笑った。
「そういわずに食おうぜ」
「そうですか。苦労してますね、荒北さん」
「わかってくれてうれしいヨ」





(疲れたのでここまでで。真波山岳になつかれてみました)
何かとうるさい連中をのらりくらりとかわして、リハビリに徹したの良かったらしい。当初告げられていたリハビリ期間よりも早めに回復したらしく、運動も、バスケもしても良いと、医者からの許しが卒業前に出たのだ。高校へと進学してもしばらくはかかるだろうと言われていたから、随分と早いなぁと思ったのは自分だけでなく、何かと心配してくれていた周りも驚き、喜んでくれた。
 体育会系な自分も喜んでいそいそとランニングへ出かけたり、お世話になっていた道場にも顔を出したりと、久しぶりに自由になった体を満喫した。進学先は無事に決まっていたし、何も心配することもなく日々を過ごした。
 卒業式当日は、それなりに友好を深めていた友達と騒ぎ、高校へいってもたまには集まろうだとか、真新しい携帯を持ってメアドの交換だとか、定番のイベントを笑顔でこなし、少しだけ泣いた。
 そこに彼らの姿はなく、バスケットボールを触ることは一度もなかった。


■■■


 何度経験したかなぁ、なんて思うけどそれほど回数を重ねていないことに気づき、そもそも高校の入学式を何度も体験するなんて可笑しな話だと、そう思い直した。
 ストライプが入った真新しいブレザーは少し大きめで、裾が少し余る程度に作られている。これはまだ成長するだろうという父の見込みだったが、もうしなくても良いというのが正直な気持ちだった。
 バスケはやめた。身長はもう必要ないのだ。バスケに力を入れているとはいえない学校を選んだとはいえ、身長が高いというだけで勧誘されることもあるはずだ。それを考えると、もう打ち止めにしてもらいたかった。毎年の身体測定で数ミリづつ伸びる自分の背が憎らしいったらない。十分、平均身長は越しているのだから、さっさと止まってしまえばいいものを。牛乳を飲むのをやめれば良いのだろうか。
 ぼんやりとそんなことを考えて、やはり牛乳をやめようと、入学式の長い話を上の空で聞き流していた。校長の話だとか、昔から苦手だったんだよなぁ。とにかくお偉いさんの、小難しい話が苦手で集中できた試しがない。いつの世もどの時代も、この辺は変わらないのだと大きく欠伸をした。


■■■


 事前に確認しておいた自分のクラスに移動し、出席番号順に座るようにと黒板に書かれた指示に従って、席を探す。見つけた席はちょうど真ん中らへんで顔を顰めるが、少しだけ窓側よりだったので、廊下側よりはましか、と思い直して座る。
 さて、どうしたものか。体育会系ではあるが、社交性があるとは言いがたく、人見知りの激しい自分が早々にこのクラスになじめるとは思えない。何度繰り返しても根本は変わるはずなく、そのたびにこうして悩んできたが、いつもなんだかんだどうにかなっていたことを思い出す。悩んでいると変な人間に目をつけられ、巻き込まれ、気づくと回りと打ち解けていたりしていたっけ。そういうことが多くて、多すぎて、普通の初対面での知り合い方というのがよくわからなくなっていることに気づいた。
 ざっと教室を見渡すと、今回はそんな変な人間はいなさげであることに喜んだ矢先にこれだ。普通の学生生活を送れるはずのことが、逆に困り果てることになるとは。すっかり毒されている。自分の巻き込まれ体質による非日常に。
 平凡に生きたいと願っておきながら、いざ平凡を目の前にすると戸惑うなんて。ある意味での非日常に慣れすぎたせいだ。
 あぁ、でも、普通の学生生活を送れるなんて、純粋に嬉しいなぁと、口角を緩く吊り上げて始業のチャイムを聞いた。
 新しい生活を送ることになる箱根学園入学式初日は、ぼんやりとするだけで終わった。




(まだ全然決めてなくて、とりあえず入学させてみた。)
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